インターセックス・イニシアティヴへようこそ

「お子さんは、男の子?女の子?」というのは日常会話でもよく聞くフレーズです。特に、赤ちゃんが産まれたばかりの親は、親戚や友人や職場の同僚などからこの質問を何度となく聞くことでしょう。

しかし、新生児の2000人に1人の割合で、身体的特徴から完全に男児であるとも女児であるとも判別しづらい身体をもった子どもが生まれます。こうした子どもはインターセックス(半陰陽児とも言います)と呼ばれ、1950年代以降、医学では「できるだけ早い時点でノーマルな男性もしくは女性に見えるように外科手術をほどこして、本人にはできるだけ事実を教えないのがその子のためである」とされてきました。そうして、インターセックスの身体は病院で「修正」され、その存在自体が社会から隠されることになります。

ところが、1990年代のはじめごろから米国では、そうした手術を受けて育ってきた大人たちによる、こうしたインターセックス医療に批判的な運動、インターセックス・ムーブメント(運動)が起きました。批判のポイントは少なくとも5つ。第一に、性器にナイフを入れられたことなどによって感覚が弱くなり、性生活に問題がでたこと。第二に、繰り返し手術を受けさせられたり医者に興味本位に扱われたこと自体がトラウマになったこと。第三に、情報が与えられなかったことでかえって自分自身がどうなっているのか悩んだり、自尊心を傷つけられたこと。第四に、これだけ重大な手術でありながら、その必要性や有効性や安全性を示すデータは全く存在していないこと。最後に、この種の治療には患者自身の意志が全く反映されておらず、インフォームドコンセントの原則に反すること。

インターセックス・ムーブメントは、子どもが男児もしくは女児として育てられること自体には反対しませんが、不必要かつ本人の同意を得ない性器形成手術を禁止し、子どもの年齢に応じて可能な限り全ての情報を開示することを主張します。また、インターセックスの子どもを持った親とインターセックスの子どもに対し、カウンセリングや自助グループなど社会的・心理的なサポートを提供するよう要求します。インターセックスの子どもやその親が生きにくいとしたら、それは社会の問題であり、子どもの身体ではなく社会を変えることで「すべての人が生きやすい世の中」を作るべきであると考えます。

インターセックス・ムーブメントが登場した当初、「不満を抱えているのは一部の当事者であり、大半は自分が受けた治療に満足している」とされていたものの、ここ数年に発表されたさまざまな調査によって過去に行なわれた医療行為に様々な欠陥があったことが明らかになっています。例えば、イギリスにおける調査ですが、Creigton, Minto and Steel (2001) は、子どもが幼いうちに実施された膣形成手術のうち98%もが長期的には失敗であるとしています。また、Minto, Liao, Woodhouse, Ransley and Creighton (2003) では、肥大した陰核の一部もしくは全体が除去された手術の結果、多くの患者が性的な問題をかかえていると報告されています。ただし、インターセックス・ムーブメントに同調する専門医は今のところまだ一部に過ぎず、今もさらなる調査と医療倫理上の議論が続いています。

日本でも、1995年に橋本秀雄(ハッシー)氏によって、はじめてのインターセックス当事者グループが発足しています。この団体は、現在PESFIS (Peer Support for Intersexuals)という名前で、「半陰陽の子ども達とその家族のセルフヘルプグループ」として活動しています。また、橋本氏による書籍が何冊か発行されており、出版物における貴重な情報源となっています。

日本インターセックス・イニシアティヴは、米国ポートランドに本拠地を置く非営利のインターセックス運動団体 Intersex Initiative と連携し、インターセックスについての最新情報を日本語で提供するためのプロジェクトです。当面、米国の資料の邦訳が中心となりますが、いずれ日本独自のコンテンツも充実させることを目指しています。 Intersex Initiative の代表をつとめている米国在住の日本人と、日本在住の活動家・学識者・ボランティア数名で運営しています。(主に英語から日本語への翻訳の仕事を手伝ってくれる方を常に募集しています。)

【参考文献】

Creighton SM, Minto CL, Steele SJ (2001). "Objective cosmetic and anatomical outcomes at adolescence of feminising surgery for ambiguous genitalia done in childhood." The Lancet, 358:124-25.

Minto CL, Liao L-M, Woodhouse CRJ, Ransley PG, Creighton SM (2003). "The effect of clitoral surgery on sexual outcome in individuals who have intersex conditions with ambiguous genitalia: a cross-sectional study." The Lancet 361:1252-1257.